日本の実質賃金が7カ月連続マイナス — 円安は止まるのか?インフレと金融政策を徹底解説

厚生労働省が2025年9月26日に発表した7月分の実質賃金確報値は、速報ベースの +0.5% 増から −0.2% 減へと大きく下方修正されました。

これにより、実質賃金の前年割れは 7カ月連続 という重い記録になったのです。Reuters


一方、総務省発表の東京都区部コアCPI(生鮮食品を除く物価指数)は、前年同月比 +2.5% と前月から変わらずの水準を維持しました。Reuters Japan+2Reuters+2

物価は上昇を続ける中、賃金が追い付かないこのギャップは、家計の購買力を直撃し、景気・金融・為替市場に波紋を広げる構図です。

このグラフは、2024年〜2025年の「名目賃金(前年比)」と「実質賃金(前年比)」を比較したものです。
名目はプラス基調でも、物価上昇の影響で実質はマイナス圏が続いている点が一目で分かります。

この記事では、実質賃金・物価の最新データを踏まえながら、日銀の対応、世界のインフレ潮流、そして為替・投資家視点での見通しを交えて解説します。

日本の実質賃金が7カ月連続で下落

厚労省によれば、7月の実質賃金(前年同月比)は −0.2% に下方修正されました。Reuters

これは、物価上昇を名目賃金上昇が十分に打ち消せていないことを示す明確なサインです。


なお、6月時点でも実質賃金は −0.8% 減と、既に6カ月連続のマイナスを記録していました。DLRI

さらに、名目賃金(現金給与総額)は前年比 +3.4% の伸びを示したものの、物価上昇の勢いに抑え込まれている格好です。Reuters

この状態が続くと、消費抑制→企業収益圧迫→景気下押しという連鎖リスクが強まります。内需セクター・小売・サービス業を中心に影響が出始める可能性を念頭に置く必要があります。

物価高は続く — コアCPIは2.5%の高水準維持

東京都区部のコアCPI(生鮮除く)は、9月時点で 前年同月比 +2.5% を維持しました。

伸び率は市場予想である +2.8% を下回ったものの、前月と同水準という結果です。

電気代+3.4%、都市ガス代+2.0%とエネルギー分野が上振れ要因になった反動も見られます。

上のグラフは、東京都区部の「総合CPI」「コアCPI(生鮮除く)」「コアコアCPI(生鮮・エネルギー除く)」の前年同月比を12カ月で比較したものです。
総合やコアが高止まりする一方、コアコアCPIが緩やかに鈍化している場合は、エネルギーや一時的要因を除いた基調インフレが落ち着きつつあることを示唆します。
逆に、コアコアが横ばい〜上向きなら賃金とのすり合わせ次第で政策がタカ派化する可能性が高まります。

一方で、保育料など公共サービスの低廉化措置の影響で、物価上昇圧力の一部抑制が働いたとの分析もあります。

このような物価の底堅さは、インフレ期待を支え、金融政策のタカ派圧力を引き起こす要因になるのです。

賃金停滞と円安の深い関係

賃金の伸びが物価上昇に追いつかない現実は、日銀の利上げ余地を狭めます。
すると、海外との金利差が拡大し、キャリー取引を通じて「円売り・外貨買い」が加速しやすくなるのです。

上の表は、日米10年金利差(左軸:%)とドル円(右軸)の推移を重ねたものです。
一般に、金利差が拡大するとドル円は上昇(円安)しやすく、縮小すると下落(円高)になりやすい相関が見られます。
相関の強さは期間や局面で変動するため、イベント前後(雇用統計・日銀会合など)は金利差の変化方向とレートの乖離をセットで確認するのが実務的です。

もし賃金上昇率が物価上昇を上回るようになるならば、日銀は余裕を持って利上げ方向を検討でき、円高方向への修正圧力が発生しうるでしょう。

現在の停滞状態では、そのような好循環への移行はまだ遠いと見られます。

日銀の金融政策と出口戦略

9月の金融政策決定会合では、日銀は政策金利を 0.5% に据え置く判断を続け、同時に過去に購入したETFを段階的に売却する方針を示しました(売却ペースは慎重)。

日銀の方針転換やETF売却の狙い、相場インパクトの詳細は 日銀の出口戦略と金融政策の全体像(背景・市場反応・投資家への影響) で詳しく解説しています。

この動きは、超緩和策からの「出口戦略」の一環と見られていますが、市場では利上げを先急ぎする姿勢は慎重に扱われています。

市場センチメントでは、次回の利上げは年末~2026年初頭と予測する声が多く、仮に賃金上昇が物価を上回るようなデータが出れば、そのタイミングが前倒しになる可能性があります。

今後の注目点は、10月末の次回会合で発表される四半期見通しと、議事録・追加コメントの内容になるでしょう。

世界のインフレ動向と為替への波及

米国では、FRBが利下げ(0.25%)というスタンスを取る中、ドル金利が低下方向に動いています。

これがドル安・他通貨高の流れを助長し、円・ユーロ・スイスフランなどへの資金シフトが強まる可能性があるのです。

欧州、中南米、新興国でも緩和的政策が目立ち、世界各地で金利引き下げ競争の様相を呈しています。

こうした流れは、相対的に利回りが高い通貨(ドル以外)を魅力的にし、資本移動を誘発するのです。

、**主要中銀の政策金利(左軸)主要クロス円(右軸)**を同一期間で表示しています。
一般に、金利が相対的に高い通貨ほど資金が向かいやすく、為替はその方向にトレンドが出やすいため、政策金利の方針転換(利下げ・利上げ)は為替のトレンド転換点になりがちです。
米国の利下げペースや日銀の正常化度合いが変化する局面では、レートの先行・遅行にも注意を払いましょう。

加えて、OECDは2025年の世界成長率見通しを 3.2%、2026年を 2.9% に引き下げ、政策の不確実性や通商リスクを主因と位置づけています。

世界経済の減速リスクが強まれば、リスクオフの動きが加速し、安全資産である円が買われる展開も想定されます。


投資家が押さえるべき注目ポイントと戦略

注目指標・イベントと対処法

  • 米国PCEデフレーター(個人消費支出価格指数)
     FRBが重視するインフレ指標。強い数字が出ればドル買い・円売り圧力が強まる → 発表前後はポジションを軽めに扱うべき。
  • 日本のCPI/実質賃金統計
     予想を上回る伸びが確認されれば、日銀の利上げ観測が先鋭化 → 短期ポジションの見直しを。
  • 日銀金融政策決定会合・議事録公表
     政策の変化やスタンス転換を読み解く鍵。会合前後はポジションを抑えてリスク管理を徹底。
  • 米国雇用統計・小売売上高・耐久財受注
     米国経済の強弱を示す指標であり、ドル金利見通しを左右し、ドル円など為替相場に大きな影響を及ぼす。

ドル円レンジ予測とポジション戦略

  • 目安レンジ:現在、ドル円は約 149.7円 前後で推移。みんかぶ FX/為替(みんかぶFX)
     短期レンジとして 148.5〜150.5円 を想定しておきたい。
  • 上値シナリオ:150.5円を明確に突破すれば、151円前後までの上昇圧力が視野に入る。
  • 下落シナリオ:予想外の弱い米指標や世界リスクオフで、148円台前半までの下押しも警戒。
  • 戦略案
     1. レンジ売買(148.5円で買い、150.5円で売り)
     2. 節目ブレイク追随(150.5円超でロング、148.0円割れでショート)
     3. ポジション分割・ストップロス設置:イベント前後は半量に縮小してリスク軽減
     4. ヘッジ併用:オプションや外貨建資産などで為替リスクを分散

まとめ

7月の実質賃金下落(−0.2%)と東京都区部コアCPIの高水準維持(+2.5%)という対照的な数値は、現在の日本経済が抱える構造的な矛盾を明確に示しています。

賃金が追いつかない現状では、円安トレンドが継続しやすく、輸入コスト・家計負担の膨張が懸念されるのです。

投資家は、国内外のインフレ・賃金データや日銀会合のスケジュールを厳しくチェックし、ドル円レンジ・方向感を見極めながら柔軟なポジション戦略を採ることが求められます。

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