中国・ロシア主導「BRICS通貨構想」とは?脱ドル化を狙う新たな国際通貨の挑戦を徹底解説

米ドルが世界の金融システムを支配してからおよそ80年。
貿易、エネルギー、金融取引、すべての経済活動は「ドル」が中心に取引されてきました。

しかし近年、この一極支配に挑もうとする動きが台頭しています。
その中心にいるのが、中国とロシアを軸とする「BRICS(新興5か国)」です。

彼らが掲げるのは「脱ドル化(de-dollarization)」、つまり米国主導の金融秩序からの自立。
そしてその象徴ともいえるのが、いま注目を集めている「BRICS通貨構想」なのです。

この記事では、BRICS通貨の狙い・仕組み・メリット・課題をわかりやすく整理し、「本当にドルに代わる存在になり得るのか?」という問いに迫ります。

BRICS通貨構想とは?

世界経済の裏側で、静かに進んでいる通貨覇権の変化。
長年、国際貿易や資本取引の中心に君臨してきたのは「米ドル」でした。
しかし近年、このドル中心体制に異を唱える国々が現れています。

その中心的存在が、中国とロシアを軸とする新興国グループ「BRICS」です。
彼らは、ドルを介さずに貿易や投資を行うための独自通貨・決済システムの構築を進めています。
それが「BRICS通貨構想」と呼ばれる、脱ドル化の象徴的な試みです。

この構想は単なる通貨の新設ではなく、世界の金融秩序を再構築しようとする壮大な挑戦
果たしてそれは現実のものとなるのか、それとも政治的なメッセージに過ぎないのか?
まずは、その仕組みと狙いを見ていきましょう。

ドル依存を減らす「脱ドル化」への動き

BRICS通貨構想とは、加盟国同士が米ドルを介さずに貿易や投資を行うための新たな決済・通貨システムを構築しようという試みです。
この狙いの根底にあるのが、「ドル依存からの脱却」です。

米国の金融制裁やSWIFT(国際銀行間通信協会)からの排除など、ドル支配体制が政治的圧力として機能してきた現実を踏まえ、中国・ロシアは「自らの通貨で取引する権利」を強く主張しています。

BRICSとは何か?加盟国とその影響力

BRICSとは、ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカの5か国で構成される新興国グループです。
世界人口の約4割、GDPの約3割を占め、資源・労働力・市場の3要素を併せ持つ巨大経済圏で構成されます。

2024年以降はサウジアラビア、イラン、エチオピアなどが加盟意向を示し、その勢力は「新しい多極化の象徴」として広がりを見せているのです。

中国・ロシアが主導する背景

BRICS通貨構想の中心にいるのは、中国とロシアです。
両国に共通しているのは、「米ドル依存からの脱却」という強い動機です。
ただし、その背景にはそれぞれ異なる事情と戦略があります。

ロシア:制裁下で見えた「ドル支配の脆さ」

ロシアはウクライナ侵攻以降、米欧諸国から厳しい金融制裁を受けました。
特に痛手となったのが、国際送金ネットワーク「SWIFT」からの排除です。

この措置により、ロシアの主要銀行は国際決済機能を失い、企業や個人の送金・貿易決済が一時的に麻痺しました。
この経験が、ロシア政府に「ドル体制の危険性」を強く意識させたのです。

現在ロシアは、SWIFTに代わる自国システム「SPFS(金融通信メッセージ送信システム)」を開発し、
BRICS加盟国や友好国との相互接続を模索しています。
また、原油・天然ガスなどの資源取引を「ドル建て」から「自国通貨・人民元建て」へ切り替える動きも加速中です。

ロシアにとって、「ドルを介さない貿易・決済ルート」こそが経済安全保障の柱となりつつあります。

中国:人民元の国際化と多極通貨体制への布石

一方、中国の狙いはより戦略的で長期的です。
中国は以前から「人民元の国際化」を国家目標に掲げており、アジア・中東・アフリカ諸国との貿易を人民元建てで進める体制を整えてきました。

中国人民銀行は、香港・シンガポール・アラブ首長国連邦などに「人民元清算銀行」を設置し、国際決済インフラを拡張。
さらに「CIPS(国際銀行間決済システム)」をSWIFTの代替候補として運用しています。

また、中国が開発を進める「デジタル人民元(e-CNY)」も、将来的には国境を越えた決済に活用される可能性があります。
こうした体制整備は、人民元をBRICS通貨の中核に据える準備と見る事が出来るのです。

加えて、中国は米国との経済摩擦や制裁リスクを回避する意味でも、「ドルを介さない決済ルート」を持つことが戦略上の優先事項となっています。
つまり、BRICS通貨構想は人民元国際化を補完する“政治経済ツール”でもあるのです。

共通する目的:ドル支配からの脱却と影響力の拡大

両国の動機は異なるものの、根底には共通点があります。

  • 米国による金融制裁・金利政策の影響を受けたくない
  • 自国の通貨・決済ネットワークを国際的に拡張したい
  • BRICSを通じて、欧米主導の金融秩序に対抗する軸を築きたい

ロシアは“ドル支配からの防衛”を、中国は“新秩序構築の攻勢”を狙う形で、それぞれの思惑が一致しています。

BRICS通貨構想は、まさにこの両国の利害が交差する地点に立つプロジェクトなのです。

BRICS通貨の仕組みと構想案

BRICS通貨構想は、単なる「新しい通貨」を作るという話ではありません。
むしろその本質は、国際金融システムそのものを再設計しようとする試みにあります。

アメリカ主導のドル体制から独立した「決済ネットワーク」や「共通基盤」を構築し、
新興国同士が自立した金融ルートを持つことを目指すのがこの構想の根幹です。

その中核を担うのが、「BRICS Pay」や「共通通貨モデル」
そしてそれを支えるデジタル通貨技術と金融安全網の整備です。
ここでは、それぞれの仕組みを詳しく見ていきましょう。


BRICS Payとは?脱SWIFTを目指す決済システム

BRICS通貨構想の最初の柱となるのが、
「BRICS Pay(ブリックス・ペイ)」と呼ばれる国際決済プラットフォームの構想です。

これは、各国の銀行間取引や企業間送金を、
米ドルやユーロを介さずに自国通貨同士で直接決済できるようにする仕組みです。

技術面と運用構想

  • BRICS Payは、加盟国の銀行ネットワークを「分散型通信(DLT)」で接続する構想が中心。
  • これにより、国際送金のスピード向上・手数料削減・透明性確保を実現。
  • 将来的には、ブロックチェーンベースのリアルタイム決済を視野に入れており、
    SWIFTに依存しない「BRICS版メッセージシステム」として機能する可能性があります。

つまりBRICS Payは、
「共通通貨の前段階としての“技術的基盤”」とも言える存在なのです。

共通通貨「BRICS通貨」の構想モデル

BRICS Payの上に位置づけられているのが、加盟国共通で利用される「BRICS通貨(仮称)」の構想です。

これは「新しい通貨を発行する」というよりも、加盟国の通貨価値を束ねた“バスケット型通貨”を創るという考え方が近いでしょう。

バスケット通貨モデル

  • 各国の通貨(人民元・ルピー・ルーブル・レアル・ランドなど)を
    一定の加重比率で構成し、共通通貨の価値を算出。
  • 国際通貨基金(IMF)が運営する**SDR(特別引出権)**に近い仕組み。
  • 為替変動の影響を平準化し、BRICS圏内の取引を安定させる狙い。

直接的な統一通貨案

一部の報道では、BRICSが将来的に「実通貨」として統一通貨を導入する可能性も取り沙汰されています。
ただしこれは、EUのユーロ導入に匹敵する調整を必要とするため、現時点では政治的象徴・仮想通貨的な共通単位として機能する可能性が高いとみられています。

通貨設計の主導国

  • 通貨バスケットの中心には、経済規模が圧倒的な「中国(人民元)」が置かれる見通し。
  • ロシアは資源輸出国として裏付けを提供し、
    他の加盟国は通貨安定性・貿易量に応じて加重比率が設定されると考えられている。

つまり、「BRICS通貨」は政治的には多国間連携の象徴であり、経済的には人民元ブロック拡大の延長線にあると言えるでしょう。

デジタル通貨・ブロックチェーン活用の可能性

BRICS通貨構想を現実化する上で、
最も重要な技術要素となるのが「CBDC(中央銀行デジタル通貨)」です。

中国のデジタル人民元(e-CNY)の先行事例

中国はすでにデジタル人民元を実用段階に近い形で運用しており、一部の国際博覧会や越境ECで実験的に利用されています。

また、「e-CNY」をBRICS圏の共通プラットフォームに組み込む構想が、一部シンクタンクや政府系メディアで議論されているのです。

ブロックチェーンがもたらす利点

ブロックチェーン基盤を活用することで、「透明性」「即時性」「コスト削減」「改ざん防止」を同時に実現することが可能となります。

また、各国のCBDCを相互接続(クロスチェーン化)することで、為替変換なしで送金・決済が可能になる未来像も描かれているのです。

特にアフリカ・中東など、既存金融インフラが脆弱な地域にとって、デジタル化されたBRICS通貨は“金融包摂”を進める手段ともなり得ます。

関連制度(BRICS Clear、再保険制度、CRAなど)

共通通貨構想を支えるもう一つの柱が、「金融セーフティネット(安全網)」の整備です。
BRICSは既に複数の補完制度を検討・構築しています。

制度名役割・機能補足説明
BRICS Clear国際清算機構(Clearing System)各国の銀行間で取引を即時清算する仕組み。SWIFTに代わる「BRICS版CLS」とも呼ばれる。
BRICS Reinsurance相互補償・リスク分散制度制裁や保険引受制限に備え、加盟国同士で再保険ネットワークを構築。
CRA(Contingent Reserve Arrangement)緊急時流動性支援為替危機・資本流出時に、各国がドルに頼らず資金を融通し合うための共同基金。
BRICS Grain Exchange食料・資源価格形成機構資源・穀物などをBRICS内で価格決定・取引することで、ドル建て市場への依存を減らす狙い。

これらの仕組みは、
単に通貨を作るだけでなく、「それを安定して運用できる仕組み」を整えるためのものです。

つまりBRICS通貨構想とは、
「決済・通貨・保険・清算を総合的に再設計する“金融エコシステム構想”」でもあるのです。

実現を阻む課題とリスク

BRICS通貨構想は、確かに理想的なビジョンを描いています。
ドルに依存しない決済システム、ブロックチェーンを活用した透明な金融ネットワーク、そして新興国が主導する多極的な通貨体制──。

しかし、その実現には多くの“壁”が立ちはだかっています。

通貨の信用力、加盟国間の利害の違い、技術的インフラの未整備、さらには既存のドル体制との対立といった、複雑な課題が山積しているのです。

ここでは、BRICS通貨構想が直面する主なリスクと障害を整理し、「なぜ構想が簡単には進まないのか」を具体的に見ていきましょう。

通貨の信用力と安定性の確保

新通貨が国際的信用を得るには、安定した経済と金融政策が必要となります。
しかし加盟国間ではインフレ率・金利政策が大きく異なり、単一通貨運用は非常に難しいのが現実です。

中国・ロシアと他加盟国の利害対立

中国が主導権を握る構図に、インドやブラジルは慎重な判断をしています。
「人民元の影響力が強すぎるのでは」との警戒感も根強く、意思統一の難しさが最大の障壁となっているのです。

技術・インフラ整備の遅れ

BRICS通貨構想を現実化するうえで、最も実務的な課題が「技術とインフラの格差」です。

BRICS加盟国の中でも、中国はすでに高度なデジタル決済インフラを整備しており、人民元の国際送金ネットワーク(CIPS)も稼働しています。
しかし、他の加盟国──とくに南アフリカやブラジルでは、銀行間の通信網やブロックチェーン技術の導入がまだ途上段階にあるのです。

また、各国の金融監督制度や法的枠組みも統一されておらず、「どの通貨で」「どのルールに基づいて」決済するのかという点が不明確です。

つまり、BRICS通貨の構想が理論的に魅力的であっても、現実には“基盤となるネットワーク”の整備が追いついていないというのが実情となります。

米国・IMFなど既存体制との摩擦

BRICS通貨構想は、単なる経済的な試みではなく、ドル支配体制への挑戦という政治的側面を強く持っています。

そのため、BRICS通貨のような「脱ドル化」を進める動きは、
米国や欧州諸国から見れば、自国の経済的・外交的影響力を脅かす行為と映るのです。

今後もしBRICSが独自の通貨・決済ネットワークを強化すれば、米国が追加制裁・貿易圧力・資本移動制限といった政治的報復措置を取る可能性も否定できません。

また、IMFや世界銀行が運営する国際金融システムとの整合性も問題です。
BRICS通貨がIMFのSDR(特別引出権)に対抗する形になると、国際資本市場の信認を得にくくなるリスクがあります。

つまり、BRICS通貨構想が成功するためには、既存体制との摩擦をいかに最小化できるかが鍵となるのです。

導入スケジュールの不透明さ

最後に、実務的な最大の課題として挙げられるのが、導入スケジュールの不透明さです。

2024年のBRICS首脳会議でも「共通通貨」そのものは具体化せず、「決済システムの開発・研究を継続する」という段階に留まりました。
いわば、構想は“青写真”のままで、明確なロードマップが存在しません。

加盟国間では、共通通貨の導入時期・運用体制・資金負担などで意見が割れており、現実的には短期間での実現は難しい状況です。

さらに、通貨発行主体(どの国がどの割合で出資するのか)や、為替レートの算出基準、金融政策の権限など、根幹部分の設計もいまだ合意に至っていません。

そのため専門家の多くは、「少なくとも10年単位の長期プロジェクトになる」と見ています。
まずはBRICS PayやCRAなどの周辺制度が整ってから、段階的に共通通貨の試験運用に移行するというのが現実的なシナリオです。

まとめ:BRICS通貨は夢か現実か

BRICS通貨構想は、現状ではまだ「理想」に近い計画です。
しかしその背後には、米ドル一極支配への根本的な不満と、多極的な世界経済秩序への移行願望があります。

共通通貨が実現するかは未知数ですが、「決済の多様化」「ドル離れの加速」という潮流は確実に進んでいるのです。

BRICS通貨は、世界の金融マップを書き換える
“静かな革命”の入り口に立っているのかもしれません。

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