利上げせずに円高へ?高市政権が描く経済シナリオ

2025年、日本の政治と経済は大きな転換点を迎えています。

  • 日経平均は史上最高値圏
  • インバウンドが再び活況
  • 半導体投資・防衛産業が拡大
  • 南鳥島のレアアース開発が本格化へ
  • トランプ大統領来日で資源・安全保障協力に言及

その中で注目されるのが、高市総理の次の趣旨の発言です。

「今のタイミングで利上げをするのは合理的ではない」

総理になる前の発言ではありますが、就任後の政治活動を見ても、円安・物価高が国民生活を圧迫する中であえて利上げに慎重なスタンスをとっているのは間違いないでしょう。

とはいえ、円安からくる物価の上昇など現時点での問題点は総理も把握しているはずです。

ならこの背景には、「利上げなしで円高を実現できる未来シナリオ」があるのではないか?
そう考えると、点と線がつながってくるのです。

本稿では、

  • なぜ高市政権は利上げを急がないのか
  • 利上げなしで円高が起きるメカニズム
  • 円安物価対策と円高構造の両立
  • 投資家が押さえるべき“日本再評価”の鍵

を、政治・経済・FXの視点で立体的に解説します。

なぜ利上げを急がないのか

まず誤解を避けたいのは、

高市政権は「円安容認」ではない

という点です。

円安による物価高が国民生活に影響していることは政府も把握していますし、
光熱費・ガソリン補助、食料支援、物流支援など価格抑制策は継続しています。

では、なぜ利上げに踏み切らないのか?
その理由を考えてみると以下の3つが思い浮かびます。

① 賃上げサイクルがまだ完成していない

日本は30年ぶりの賃上げ局面に入っています。

しかし、

  • 一部業種に偏り
  • 中小企業の賃上げ余力はまだ途上
  • 労働移動・スキル投資も過渡期

という段階です。

ここで利上げをすると、

賃上げの芽をつむ → 消費失速 → 再びデフレリスク

というシナリオが生まれかねません。

② 内需・投資環境を冷やしたくない

岸田政権から高市政権へと政策のギアは明確に変わりました。

  • 半導体産業支援
  • 防衛産業強化
  • 生成AI・デジタル投資
  • インフラ更新
  • 農業・食料安全保障

これらは民間投資を引き込む政策ラインです。
利上げは、必要な資金を高コスト化し、投資を鈍らせるリスクがあります。

③ 国債費の増加リスク

利上げは国債金利を押し上げます。

利上げ → 財政負担増 → 支出制約 → 成長政策が制限

という悪循環を避けるべきだ、という判断です。

つまり高市政権は、

「成長が固まるまでは利上げカードは切らない」

という時間戦略に基づいて動いていると推測できます。

“利上げなし円高”は本当に起こるのか

さて、ここからが本題です。

為替市場では「円高は金利で決まる」という見方が長く定着してきました。
たしかに教科書的には、金利差が通貨価値を左右します。しかし、いま日本が直面している構造変化はそれだけでは説明できません。

高市政権が見据えているのは、金利政策ではなく“国力”による円高です。

産業競争力、資源自立、国際資本の回帰
この三つの車輪が同時に回り始めれば、利上げという短期的な痛みを伴うスイッチを押さずとも、円は自然と評価されていくはず」
そうしたビジョンが、政策の背後に透けて見えます。

以下では、その主要ルートを三つに整理し、順に解説します。

1. 日本株リレーティングと円転の波

まず一つ目が、日本株の再評価と海外資金の流入です。

近年の日本株高は、単なる金融相場ではなく、構造的な期待の高まりが背景にあります。
半導体、次世代電池、防衛・宇宙産業、観光産業、そして海底資源——かつて日本が「成熟しきった市場」と見られていた時代とは明らかにトーンが違うのです。

海外投資家が現物株を買う際、多くの場合で円を調達する必要があります。
つまり、株式市場に資金が入るほど、為替市場にも円買いの圧力がかかるのです。

もちろんすべての投資が“円転フロー”を生むわけではありません。
一部は先物やヘッジで処理されます。
ただ、いま起きている動きの本質はそれでも変わりません。

企業が稼ぐ → 投資家が評価する → 円が買われる

この正の循環が形になりつつあります。
それは、かつての「金融緩和頼み」だった相場と決定的に異なる点です。

金利ではなく、企業競争力という実体経済の強さが円価値を押し上げていく——
高市政権が利上げに慎重なのは、まさにこの“芽”を摘まず、太い幹に育てたいからだと考えられます。

2. レアアース深海泥:資源国家としての新しい顔

二つ目は、レアアース深海泥の商業化です。

南鳥島周辺の海底には、世界最大級のレアアース資源が眠っているとされます。
この数年で研究は大きく進展し、2026年以降はいよいよ本格的な試験採掘フェーズに入ります。

レアアースの確保は、安全保障と産業政策の中心に位置するテーマです。
EV、風力発電、半導体、航空宇宙——あらゆる先端産業に必須なこのレアアース。
現在は中国依存の高い分野ですが、日本が採掘〜精製〜磁石製造まで国内で完結できれば、国力としての意味は計り知れません。

これは、単なる“輸出増”という話ではありません。

  • 日本の供給安全性が上がる
  • 国際サプライチェーンでの存在感が強まる
  • 生産拠点や投資が日本に引き寄せられる

こうして外貨獲得の基盤が形成されることで、円は中長期的に強含みます。

重要なのは、これは市場の思惑ではなく、国家戦略だという点です。
「エネルギー弱国」だった日本が、“資源を持つ国”として再定義される可能性を持っています。

3. 米国との戦略的パートナーシップと投資の波

三つ目は、日米の資源・技術同盟の深化です。

トランプ大統領来日の際、日本企業支援や供給網協力に言及がありました。
これは単なる政治的アピールではありません。
世界は今、対中依存の低減と安全保障の再構築という歴史的な転換期を迎えています。

米国は供給網の複線化を急いでおり、信頼できる技術・産業パートナーとして日本を重視しているのです。
これが具体的な資本投下につながれば、外資の直接投資=円買い需要が生まれます。

半導体工場、レアメタル精製設備、防衛関連投資、AI開発拠点…。
投資先が日本国内に決まるということは、すなわち資本と技術と雇用が日本に流れ込むということ。

資金は言語より雄弁です。
こうした直接投資が積み重なれば、為替市場においても円の実需が増えることでしょう。

「利上げしない」という選択が意味するもの

以上の三つのルートに共通するのは、

日本の経済基盤そのものが変わり、自然と円が強くなる

という構造変化です。

金融政策は、短期の調整手段にすぎません。
しかし今、日本が取り組んでいるのは土台そのものの再構築です。

半導体・資源・防衛・インフラ・観光・食料安全保障

これらの戦略分野で日本が「稼げる国」へと戻れば、円は“戻る”のではなく、評価し直されることになります。

円安対策は“別ライン”:価格抑制と成長投資の二段構え

高市政権が利上げに慎重であるからといって、円安による生活負担を放置するつもりはありません。
ここで重要なのは、円安対策と利上げ政策を同義と見なしていない点です。

すなわち、

物価=財政で守る
成長=投資で作る
円相場=国力で引き上げる

という“レイヤーの分離”.
その上で、まず短期の“痛み止め”と、中期の“体質改善”が並行して進んでいます。

短期:円安の“痛み”を和らげる政策(守りのフェーズ)

生活者や企業が急激な円安の負担を受ける局面では、政府は価格抑制と所得支援で防波堤を築きます。

具体的には、

  • エネルギー補助(燃料・電気・ガス)
  • 食料品・物流支援
  • 低所得者への給付
  • 中小企業のコスト吸収支援
  • 賃上げ減税・補助

円安で最も打撃を受けやすいのは家計と中小企業です。
そこで、まずは暮らしと雇用の防衛を優先する。
この姿勢は、過去に円高デフレで長く苦しんだ経験の裏返しとも言えます。

さらに言えば、ここは財政政策の領域です。
「円安対策=利上げ」という単線的な発想ではなく、政策ツールを多軸で使い分けていることがわかります。

中期:円高力を“育てる”政策(攻めのフェーズ)

短期は“守り”、そのうえで政権が本丸としているのが、中期の成長投資による円価値の底上げです。

  • 半導体・次世代産業への巨額投資
  • 防衛産業の育成とサプライチェーン強靭化
  • レアアース・エネルギー安全保障
  • 人材育成とスキル移転
  • 研究開発・スタートアップ支援

これらはすべて、「稼ぐ力」を強くする政策と言えます。

国が稼げば外貨が入る。
民間投資が続けば生産性が上がる。
技術基盤が強まれば、通貨に“国力プレミアム”がつく。

つまり、このフェーズで実現したい円高は

物価対策のための円高ではなく、実力で勝ち取る円高

なのです。

金融による円高ではなく、産業と国際競争力が生む円高
高市政権が利上げへ慎重なのは、まだその基盤が伸びている途中だからとも読み取れます。

反論とリスク整理:なぜ簡単ではないのか

もちろん、このシナリオが一直線に進むほど現実は甘くありません。
利上げをせずに円高が実現するという見立てには、克服すべき課題と不確実性が伴います。
期待だけで論じるのではなく、リスクも正面から見ておく必要があります。

まず、象徴的なのがレアアース開発

南鳥島の深海泥は膨大な潜在量が推定されていますが、まだ“試験段階”であり、採掘コスト、揚泥技術、精製プロセス、さらには海洋環境への影響など、乗り越えるべき壁は数多いのが現状です。

国際価格の変動、特に中国側の供給戦略次第では、採算ラインを割り込む場面もあり得ます。
夢と現実、その狭間で慎重さが求められるのです。

次に、外国人投資資金の性質

世界の資金が日本に向かい始めていることは事実ですが、国際資本は常に“気まぐれ”です。

米国株が魅力を取り戻せば、あるいは地政学リスクが高まれば、資金は一瞬で逆流します。
いまの日本株高はリレーティングの初期段階ですが、本物の資本定着には、継続的なガバナンス改革と収益力の裏付けが不可欠です。

また、物価抑制政策の持続性にも注意が必要。

ガソリン・電力補助や所得支援は、円安による痛みを和らげるには有効です。
しかし、これらは財政負担と表裏一体と言えます。

もし円高シナリオが想定より遅れた場合、補助金依存が長期化し、財政余力を削りかねません。
政策判断の難しさと言える部分でしょう。

さらに忘れてはならないのが、FRB(米連邦準備制度)の存在

円相場の主役は依然として米金利です。
日本がどれだけ構造改革を進めても、FRBのハト派転換が遅れれば、市場は「円買いの時間ではない」と判断する可能性があります。
つまり、日本の努力 × 米国の政策という二層構造を乗り越えなければならないのです。

まとめ|円高は目的ではなく、結果である

これまで円相場を語る際、主舞台にあったのは“金利差”でした。
金利を上げれば円が買われ、下げれば売られる——その単線的なロジックに、私たちは長く縛られてきたのです。

しかし高市政権の政策姿勢からは、違う未来像が読み取れます。

利上げという即効薬に頼るのではなく、国力そのものを高めることで円の価値を底上げするという考え方です。

資本が集まり、産業が育ち、外貨を稼ぐ力が備わる。
 →その帰結として円が評価される。

高市政権はこの流れを狙っているのではないでしょうか。

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