住友金属鉱山(5713)― 南鳥島レアアース泥が照らす「日本の資源戦略の中核」

2026年、日本の最東端・南鳥島沖で、国家プロジェクト級の挑戦が始まろうとしています。
海底5,000メートルに眠る「レアアース泥(希土類を多く含む堆積物)」の実証採掘です。

この“海底資源”が注目を集める背景には、EV(電気自動車)や風力発電などに不可欠なレアアースが、中国に大きく依存しているという現状があります。
その依存を脱し、国内での資源確保と精製を実現することが、今の日本にとって喫緊の課題となっています。

こうした潮流の中で注目されている企業の一つが、住友金属鉱山株式会社(Sumitomo Metal Mining Co., Ltd./証券コード:5713) です。
同社は、双日や日立金属(現・プロテリアル)と並び、日本のレアアース戦略を下支えする中核企業として位置づけられています。

南鳥島レアアース泥とは

南鳥島の沖合に広がる日本の排他的経済水域(EEZ)内には、膨大な量のレアアースを含む「レアアース泥」が確認されています。
東京大学、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)、JAMSTEC(海洋研究開発機構)などが調査を進めており、2026年1月から試掘を開始、2030年前後の商業化を目指しているのです。

このレアアース泥は、地上鉱山と異なり、放射性物質がほとんど含まれず、環境負荷が小さいという利点があります。
しかも、その埋蔵量は推定1,600万トン。世界需要の数百年分に相当するといわれているのです。

一方で、深海5,000メートルという極限環境での採掘・回収・分離・精製には高い技術力と資本力が求められます。
この「掘る・分ける・精製する」工程を技術的に担える企業は、国内でも限られており、その筆頭が住友金属鉱山なのです。

住友金属鉱山の企業概要

住友金属鉱山は、非鉄金属の総合メーカーとして、資源開発から製錬、材料製造までを一貫して手がける 日本有数の企業です。
創業は1691年、住友グループの源流である別子銅山に端を発しています。
現在では、「資源」「製錬」「材料」の三本柱を中心にグローバル事業を展開しているのです。

主要事業内容
資源事業海外鉱山(銅・ニッケル・金・コバルト)の権益保有と生産
製錬事業銅・ニッケル・コバルトなどの製錬・精製・リサイクル
材料事業電子材料、磁性材料、電池素材(正極材)などの高機能材料開発

本社所在地は東京都港区新橋。
代表取締役社長は中里佳明氏(2025年時点)。
2025年3月期の連結売上高は約1兆3,000億円、営業利益は約1,200億円と、堅実な収益基盤を維持しています。
海外比率はおよそ60%に達しており、資源価格や為替の変動に強いグローバルポートフォリオを構築しています。

最新財務・業績ハイライト(2025年3月期)

指標数値(連結)前期比・備考
売上高1兆5,933億円+10.2%増。銅・ニッケル価格の上昇や材料事業の堅調推移。
営業利益1,208億円為替の円安寄与、資源コスト増を吸収。
税引前利益313億円特別損失などにより減益。
親会社株主帰属利益117億円前年比▲80.6%。減損影響。
自己資本比率66.8%財務健全性は高水準を維持。
海外売上比率約60%米国・フィリピン・チリなどで事業展開。

出典:同社2025年3月期決算短信(TDnet/有価証券報告書)

セグメント別業績(2025年3月期)

セグメント売上構成比概要・動向
製錬事業約74%主力セグメント。銅・ニッケル・金価格が安定。東予製錬所・日向製錬所などが稼働。
材料事業約17%電池材料・電子材料が中心。EV向け正極材の需要が拡大。
資源事業約9%モレンシー銅山(米)・タガニート鉱山(比)などで生産を継続。

→ 製錬が収益の柱でありながら、今後は「材料」への比重拡大が成長ドライバーとみられます。

配当・株主還元政策

項目内容
1株当たり年間配当130円(予想)
配当利回り約2.3%(2025年11月時点)
配当性向約30%目安
自己株式取得機動的に実施。2024年度に約150億円規模を実行。
基本方針「安定配当+成長投資の両立」。キャッシュフローを確保しつつ持続的配当を実施。

同社は景気循環や金属価格変動の影響を考慮し、「利益水準に応じた柔軟な配当政策」を採用しています。

株式・財務指標(2025年11月時点)

指標数値コメント
株価5,550円前後東証プライム上場。2025年11月時点。
時価総額約1兆3,000億円素材セクター上位。
PER(予想)約12倍割安水準。
PBR約0.9倍純資産バリュー面で評価余地あり。
ROE7.5%前後金属市況連動型ながら平均水準維持。
ROA5.1%前後総資産効率も堅実。
自己資本比率66%超高い財務安定性。

2025年11月時点の株価はおよそ 5,600円前後(東証プライム) で推移しており、時価総額は約 1兆3,000億円
PERはおよそ 12倍前後 と、素材メーカーとしては割安圏にあります。
PBRは 0.9倍前後 と1倍を下回っており、資産バリュー面からも注目されています。

配当については、2025年3月期に年間130円(配当利回り約2.3%) を実施予定。
安定したキャッシュフローを背景に、自己株式取得や設備投資にも積極的です。

近年は、銅・ニッケル・金価格の上昇や円安効果が収益を押し上げる一方、製錬コストや環境投資の増加も見られます。
それでも営業利益率はおおむね 8〜10%台 を維持しており、非鉄業界の中でも安定性は高い水準です。

株主構成(上位・2025年3月期時点)

株主名持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口)15.8%
日本カストディ銀行(信託口)6.4%
住友化学株式会社3.3%
住友電気工業株式会社2.1%
三井住友信託銀行株式会社1.9%

→ 機関投資家による安定的な保有が多く、浮動株比率は比較的低め。
住友グループ内での資本関係も維持されています。

投資家が注目すべき3つのポイント

住友金属鉱山は、単なる「非鉄金属メーカー」ではなく、資源開発から製錬・材料化までを自社で完結できる“日本屈指の素材企業” です。
同社の成長ドライバーは、世界的な資源需給の変化と、日本国内で進む経済安全保障政策の両面から支えられています。

とりわけ投資家が注目すべきは、
① 技術的な優位性と一貫製錬体制、
② 国家戦略との高い整合性、
③ EV・電池素材との相乗効果、
という3つの柱です。

これらは、同社が短期的な市況変動に左右されにくい「中長期成長モデル」を築いていることを示す指標でもあるのです。
以下では、それぞれのポイントを詳しく見ていきます。

① 高い技術力と製錬の一貫体制

住友金属鉱山の最大の強みは、「鉱山から機能性材料までの一貫体制」です。
愛媛県の東予製錬所などでは、銅やニッケルの湿式製錬・精製を行い、そこから高純度金属を得ています。

また、フィリピンでのニッケル・コバルト混合硫化物(MS)生産プロジェクトでは、副産物としてスカンジウム(希少金属)を回収 する技術を確立しました。
スカンジウムはレアアース族の一種であり、この抽出技術は海底レアアース泥にも応用可能と見られています。

海底泥に含まれるイットリウム、ジスプロシウムなどの元素を効率よく分離・抽出できるかどうかは商用化の鍵であり、住友金属鉱山の湿式製錬ノウハウはその実現に欠かせないものです。

② 国家戦略との整合性

経済産業省は、レアアースやニッケル、コバルトなどを「重要鉱物」に指定し、安定供給確保を国家方針としています。
その中で、住友金属鉱山は「国内に製錬・分離・回収技術を持つ数少ない企業」として、政府の支援対象プロジェクトにも複数参加していあるのです。

南鳥島レアアース泥が商用化された場合、
・採掘技術(JOGMEC・三井E&Sなど)
・製錬・分離技術(住友金属鉱山)
・流通・販売(双日など商社)
といった日本型サプライチェーンが構築される可能性があります。

国家の資源安全保障という観点からも、同社の技術と存在感は極めて大きなものといえるでしょう。

③ 成長分野「EV・電池素材」との相乗効果

住友金属鉱山は、レアアース以外にも電池素材分野で急成長しています。
特にリチウムイオン電池の正極材(ニッケル系)では、パナソニックやトヨタ、日産などの国内メーカー向けに供給実績があるのです。

EV市場の拡大とともに、ニッケル・コバルト・マンガンなどの需要は増加傾向にあり、同社の「資源+材料」体制は今後も長期的な追い風を受けると考えられます。

レアアース泥の抽出技術と電池素材製造技術が融合すれば、「海底資源から次世代エネルギー素材をつくる企業」としての新しい成長像が見えてくるのです。

双日・日立金属との比較で見るSMMの立ち位置

同じくレアアース関連で注目される双日・日立金属と比較すると、住友金属鉱山の独自性がより鮮明に浮かび上がります。

企業名事業領域強み弱み
住友金属鉱山鉱山~製錬~材料一貫したバリューチェーン、技術力海底資源開発のコスト・環境リスク
双日調達・貿易資源権益・供給網の多様化製錬・分離技術を持たない
日立金属(プロテリアル)磁性材料・高機能部品ネオジム磁石、レアアース削減技術上流資源確保が課題

双日は“運ぶ企業”、日立金属は“使う企業”、その間に位置して“精製し、価値を生み出す企業”が住友金属鉱山です。

海底レアアース泥の開発においては、この中間層の存在こそが日本の自立的サプライチェーンの要になると見られます。

まとめ:住友金属鉱山の展望とリスク

南鳥島レアアース泥の商用化は、まだ数年先の話です。
採掘技術、精製コスト、環境規制など、解決すべき課題は多いものの、「日本近海で採れる資源を、日本企業が自ら精製できる」という未来図は、国家戦略・産業政策の観点からも極めて大きな意義があります。

今後、住友金属鉱山が果たすべき役割は、
① 技術的ブレークスルー(分離・抽出の効率化)
② コスト競争力の確立
③ サーキュラーエコノミー(資源循環)との統合
の3点に集約されるでしょう。

また、電池素材・磁性材料事業の拡大により、同社は「資源企業」から「総合マテリアル企業」への転換期にあります。
南鳥島レアアース泥は、その象徴的なプロジェクトになる可能性があるのです。


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参考・出典一覧(2025年11月時点)

■ 公式情報・一次資料


■ ニュース・経済メディア

  • 日本経済新聞「南鳥島沖でレアアース採掘へ、2030年実用化を目指す」(2025年10月)
  • 東洋経済オンライン「南鳥島レアアース泥が開く日本の鉱業再生」(2025年10月)
  • JBpress「海底資源で脱中国依存、日本の技術が主導する新潮流」(2025年8月)
  • FISCO「レアアース関連企業の動向と政策支援」(2025年5月)
  • Yahoo!ファイナンス/株探(kabutan.jp)「住友金属鉱山、スカンジウム回収技術が注目」(2025年6月)

■ 市場・投資関連データ


■ 関連企業・技術資料

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