レアアース最前線:住友金属鉱山・双日・日立金属が描く資源再編の構図

EV(電気自動車)やAI、風力発電、半導体など、次世代産業を支える素材として「レアアース(希土類)」の重要性は増す一方です。
モーター磁石、電子部品、センサー、リチウムイオン電池の触媒など、多くの用途で不可欠な元素群といえます。

一方で、日本は長年、レアアースのほぼ全量を輸入に頼ってきました。

とりわけ、世界でも最大の生産国である中国への依存度が高く、「供給ショック」に弱い構造を抱えていたのです。
例えば、2010年に中国が日本向けのレアアース輸出量を削減した「レアアース・ショック」が記憶に新しいでしょう。

こうした状況の中、政府・産業界が「国内供給源の確立」「サプライチェーンの強靱化」「脱中国依存」を掲げる中、日本国内外の資源・企業戦略が大きく動き始めています。

世界のレアアース構造が変わる中で

近年、レアアースの国際構図にも変化の兆しがあります:

  • 米国や豪州が「中重希土類」の調達ルートを中国以外で確保しつつある。
  • 欧州もリサイクル技術や鉱山再稼働を通じて戦略鉱物としてのレアアースを重視している。
  • 日本では、深海鉱床や未開発鉱山、リサイクル・再生資源などを含め、“上流からの自立”を模索している。

特に注目すべきは、南鳥島沖の海底にある“レアアース泥”の存在です。
2013年に 海洋研究開発機構(JAMSTEC)と 東京大学 の調査で、世界有数の高品位埋蔵量が確認されています。 JBpress(日本ビジネスプレス)+2東洋経済オンライン+2

さらに、2026年1月から水深6000 m級の海底で試掘・揚泥の実証試験が予定されており、商業化に向けた“時間軸”が一歩前進しているのです。 テックジム+1

このようなマクロ事情の中、企業の動きにも注目が集まっています。

政府によるバックアップや補償金などからも、業界全体が世界中の投資家達に注目されているのです。

日本企業の「資源再編」動向 — 三社を軸に見る

世界のレアアース供給網が再編される中で、日本企業もまた「資源の確保から技術・製品化まで」を見据えた動きを加速させています。
政府主導の資源確保政策や2026年から始まる南鳥島沖での海底試掘プロジェクトを背景に、上流・中流・下流それぞれの段階で存在感を示す企業が現れているのです。

特に注目すべきは、資源開発の住友金属鉱山供給網を支える双日、そして素材・磁石技術で世界をリードする日立金属(現プロマテリアル)の三社です。
それぞれが異なる立場から「日本のレアアース自立」を支える存在であり、政策・為替・技術が交錯する中で新たな役割を担おうとしています。

以下では、この3社の動きを軸に、日本企業が描く「資源再編の構図」を詳しく見ていきます。

🟢 住友金属鉱山(5713)

住友金属鉱山は、ニッケル・銅・金など非鉄鉱山・精錬を長年手掛けてきた企業ですが、レアアース分野にも本格参入の兆しがあります。
実際、スカンジウム回収事業への投資や素材技術強化が報じられているのです。 NNA.jp+1
南鳥島沖の“レアアース泥”開発の動きとも親和性が高く、上流資源から素材加工までを視野に置いた「垂直統合型モデル」の構築が期待されます。

🟣 双日(2768)

総合商社として、レアアースの調達・供給チェーン構築を戦略の柱のひとつに据えています。
オーストラリアの鉱山、重希土類の輸入実績など、脱中国依存に向けた“海外リンク”を強化中です。 双日株式会社+1
商社機能+資源調達ルートを武器に、サプライチェーンの先端に立つ存在であり、実は日本のレイアース関連の中心企業でもあります。

🔵 日立金属(現プロマテリアル)

磁石・合金技術で世界トップクラスの実力を持つ企業です。
レアアースを用いた高性能磁石や合金材料の開発力が、EV・ロボット・再エネ領域での差別化要因となります。
日本の“素材立国”戦略において、まさにミドル〜下流工程を支えるキー企業です。

南鳥島プロジェクト:「2026年試掘開始」がひとつの分岐点

日本最東端の南鳥島沖の排他的経済水域(EEZ)内には、2500 km²の有望な海域だけで約1600万トンものレアアース埋蔵量があると推定されています。 東洋経済オンライン+1
この“海底レアアース泥”は、中国の陸上鉱山と比べて高品位とされ、開発実用化すれば日本の資源自給率を飛躍的に高める可能性があるのです。 utf.u-tokyo.ac.jp+1

政府・JAMSTEC・企業が連携して、2026年1月から海底採鉱の試掘・揚泥実証を始める予定であることが報じられており、26年を「日本レアアース転換期の起点」と位置づけるアナリストもいます。 アイザワ投資大学+1

この動きにより、企業側も“資源確保→製造加工→素材供給”という一連のバリューチェーンにおいて、戦略的ポジションを再構築しつつあるのです。

マクロ視点:政策・為替・産業構造とどう連動するか

レアアースを巡る動きは、もはや“企業単体の戦略”にとどまりません。
資源の確保、為替相場の変動、そして産業構造の再編。
この三つが重なり合いながら、日本経済全体の方向性を決定づけつつあります。

政府が打ち出す重要鉱物政策、日銀の金融スタンス、円相場の推移、さらに企業の生産・技術戦略まで、すべてが一つの流れの中で連動しているのです。

言い換えれば、レアアース問題は“資源のニュース”ではなく、“日本の産業地図を描き直す話”と言っても過言ではないでしょう。
ここからは、政策・為替・産業の3つの視点から、日本の資源再編がどのように動いているのかを整理していきます。

政策面 — 「資源は安全保障」という発想へ

日本政府は2024年度以降、「重要鉱物確保」と「サプライチェーン強靱化」を国家戦略として明確に位置づけています。
経済産業省の『戦略物資確保指針』では、レアアースやリチウム、コバルトなどを“防衛・エネルギー・AI産業を支える戦略物資”と定義。
その確保のために、

  • JOGMECによる探鉱・融資支援の拡大
  • 官民連携による海外鉱山への共同出資
  • 南鳥島や沖ノ鳥島での海底資源開発の制度整備
    など、従来の「市場任せ」から「政策主導」への転換が進んでいるのです。

この動きは、単なる経済対策ではなく、“資源=国家安全保障”という視点で捉えられています。
つまり、原材料を握る国が、次世代の産業覇権を握るという発想です。
レアアースを巡る政策は、防衛・エネルギー・半導体といった分野とも強く結びついており、日本の産業地図そのものを再構築しつつあります。

為替面 — 「資源価格 × 為替レート」の二重リスク

レアアースはドル建てで取引される国際商品であり、為替の影響を直接受けます。
特に近年のような円安局面では、輸入コストが上昇し、企業の調達コストを圧迫するのです。
一方で、住友金属鉱山や双日のように輸出・海外投資比率が高い企業にとっては、円安は利益押し上げ要因にもなります。

つまり、レアアース関連ビジネスは「資源価格の変動」と「為替変動」という二重の相場要因を抱えており、これが企業戦略をより複雑にしているのです。

  • 為替ヘッジ(ドル建て取引のリスク分散)
  • 原料調達と製品輸出の通貨マッチング
  • 為替感応度を意識した事業ポートフォリオの再設計

これら要因を同時に意識しながら相場を予測する必要があります。

また、為替動向は政策とも密接に絡みます。
円安が長期化すれば、資源自給の必要性が高まり、政府の海底資源開発支援が一層強化される。
逆に円高局面では、輸入コストが下がる代わりに輸出産業の利益が圧迫されるため、素材産業全体の再編が促進される。
まさに、為替が日本の資源政策の方向性を左右する時代に入ったといえるのです。

産業構造面 — 上流から下流までの“再接続”

レアアースを軸にした産業再編の動きは、「鉱山 → 素材 → 部品 → 製品」という日本のサプライチェーン全体に広がっています。

  • 上流:住友金属鉱山・JOGMECによる資源確保・製錬
  • 中流:日立金属(プロマテリアル)・TDKなどの磁石・合金メーカー
  • 下流:トヨタ・パナソニックなどEV/ロボット関連製品メーカー

この一連の流れが日本版“資源から製品まで”の垂直統合に向かいつつあるのです。
南鳥島開発によって「国内調達が可能な素材」を持つことができれば、上流から下流までの連携は飛躍的に強化されます。

また、脱炭素・AI・再エネなど新たな政策テーマもこの構造を加速させています。
再エネ用モーターやAIサーバーには高性能磁石が欠かせず、そこにレアアースが必要不可欠です。
つまり、レアアースを制する者が新産業を制する状況といえます。

今後の注目ポイント

  1. 南鳥島沖の海底採鉱実証スケジュールの進捗
     → 2026 年1月試掘開始、2028 年以降生産体制へ。 テックジム
    (採掘エリアによって含まれる元素構成が異なり、ある海域ではジスプロシウムが豊富、別の地点ではイットリウムやテルビウムが多く含まれるなど、“地質特性に応じた採掘計画”が鍵になります。)
  2. 脱中国の供給チェーン構築
     → 豪州、米国、リサイクルルートなどが鍵。
    (もっと言えば、豪州(ライナス)、米国(MPマテリアルズ)、リサイクル(アサヒHD、住友金属鉱山)など、海外資源企業への出資・技術連携・長期供給契約まで調べると良し。)
  3. 重希土・中希土(ジスプロシウム、テルビウム等)の確保競争
     → 特に次世代モーター用途で価値が高まる。
    (1番のポイントに重複するポイント。採掘深度によって含有率が異なるわけなので・・・)
  4. 国内素材加工・磁石・合金技術力の強化
     → 日立金属/住友金属鉱山などの技術戦略に注目。
    (注目企業だけでなく、どの企業と技術・供給面で連携しているのかまで追うと、レアアース産業の構造がより明確に見えてくる。
    例えば、日立金属とトヨタ/デンソー、住友金属鉱山とパナソニックなど、素材から完成品までの“連携網”が見えてくる。)
  5. 為替動向・円安/円高ストーリーの変化
     → 素材企業・製造業にとって為替もファクター。
    (レアアース関連の輸出・生産が拡大すれば、貿易収支の改善期待から円高圧力が強まる可能性もある。ただし、政府としては輸出競争力維持の観点から“過度な円高”を避けたい局面でもあり、政策対応との駆け引きが続くだろう。)
  6. 企業のM&A・出資・提携動向
     → 資源→素材→加工の一貫体制を構築する動き。
    (資源から素材、そして製品までの一貫体制を構築するためには、物流インフラの整備も欠かせない。特に海底資源を扱う場合、採掘地点から加工拠点までの輸送ルートを確立する必要があり、海運・港湾関連企業もレアアース産業の“隠れた主役”となる。)

まとめ — 「資源再編」の潮流に、日本企業・政策・為替が重なり合う時代へ

レアアースをめぐる展開は、単なる“素材争奪戦”ではありません。
資源・為替・政策・産業構造が一つにつながる、まさに“国力をかけた再編”の局面と捉えられます。

日本企業が今、戦略的に取るべきは「原料の安定確保」「技術の差別化」「為替環境への対応」の3点です。
その意味で、今日取り上げた住友金属鉱山・双日・日立金属は、資源再編という大きな流れにおいて“キープレイヤー”の位置にあります。

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