双日(2768)― 南鳥島レアアース泥をつなぐ「日本の資源商社」の戦略軸

2026年、日本の最東端・南鳥島沖で、国家プロジェクト級の挑戦が始まろうとしています。
海底5,000メートルに眠る「レアアース泥(希土類を多く含む堆積物)」の実証採掘です。

レアアースは、EVモーターや風力発電、半導体製造などに欠かせない重要鉱物です。
しかしその供給の大部分は中国に依存しており、安定供給の確保は日本経済の根幹を支えるテーマとなっています。

この「海底資源 × 経済安全保障」という文脈の中で、注目されている企業の一つが 双日株式会社(Sojitz Corporation/証券コード:2768) です。

同社は住友金属鉱山や日立金属(現・プロテリアル)と並び、“資源をつなぐ商社”として、日本のレアアース戦略の実務的な要を担っています。

南鳥島レアアース泥とは

南鳥島沖の排他的経済水域(EEZ)内には、膨大な量のレアアースを含む「レアアース泥」が存在します。
東京大学、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)、JAMSTEC(海洋研究開発機構)などが主導する形で、2026年1月より試掘開始、2030年前後の商業化を目指す計画です。

このレアアース泥には、イットリウム・ジスプロシウム・テルビウムなどの重希土類が高濃度に含まれています。
世界的に偏在するこれらの元素を日本近海で確保できる可能性があることから、国家戦略レベルでのプロジェクトとして期待が高まっているのです。

ただし、採掘・分離・輸送・精製のいずれも高いハードルを伴います。
特に、レアアースを「どうやって経済的に輸送・流通させるか」は商社の腕の見せどころです。
その中で、双日は“資源の権益と流通の橋渡し役”としての役割を担っています。

双日の企業概要

双日は、総合商社として幅広い分野に事業を展開していますが、その中核には「資源・エネルギー・化学品」を中心とするトレード&投資事業があります。

前身は日商岩井とニチメンの経営統合(2004年)。
資源・化学・社会インフラを柱とする“中堅商社”として堅実な成長を続けてきました。

主要事業内容
資源・化学事業レアアース・非鉄金属・化学品・リチウムなどの調達・販売・権益確保
産業インフラ事業再エネ発電、交通、産業機械などの長期投資型事業
食料・リテール事業農産物・畜産物の輸出入、流通・小売り
モビリティ事業自動車販売、リース、航空機・船舶リースなど

本社所在地は東京都千代田区内幸町。代表取締役社長は藤本昌義氏(2025年時点)。
2025年3月期の連結売上高は約 3兆8,000億円、純利益は 1,300億円 と過去最高水準を維持。
ROEは 11.8% と総合商社の中でも堅調な収益性を誇ります。

財務・業績ハイライト(2025年3月期)

指標数値(連結)前期比・備考
売上高3兆8,210億円+7.5%。資源・化学部門が好調。
営業利益1,705億円原材料価格の安定と為替の円安が寄与。
親会社株主帰属利益1,319億円過去最高益を更新。
自己資本比率29.4%商社平均を上回る健全性。
ROE11.8%目標の10%を上回り、収益効率改善。
海外売上比率約70%アジア・豪州・中東に幅広く展開。

出典:双日株式会社 決算短信/有価証券報告書(2025年3月期)

セグメント別業績

セグメント売上構成比特徴・動向
資源・化学事業約35%資源権益・金属・レアアース・化学品など。南鳥島関連でも要。
産業インフラ事業約30%発電・交通・機械設備投資。再エネ比率上昇。
食料・リテール事業約20%食品・畜産・流通など安定収益源。
モビリティ・その他約15%自動車・航空・リースなど成長領域。

資源・化学セグメントが依然として利益の中核を担っており、リチウム・レアアース・銅などの重要鉱物への取り組みが戦略上の柱です。

配当・株主還元政策

項目内容
1株当たり年間配当120円(予想)
配当利回り約3.1%(2025年11月時点)
配当性向約30%目安
自己株式取得2025年度に300億円規模を実施予定。
基本方針「連続増配と資本効率重視」。株主還元+事業投資の両立。

双日は安定配当を基本としつつ、ROE重視型の資本政策を取っています。
「増配基調」「自社株買い」「資源・再エネ投資の両立」がキーワードです。

関連企業・グループ会社(一部抜粋)

以下は「主要グループ会社・本部別」に区分された、双日の事業領域における代表的なグループ会社です。完全網羅ではなく、要点整理用途としてご活用ください。
(出典:双日「主要グループ会社」ページ) 双日株式会社+1

本部/領域会社名事業概要
自動車本部双日オートグループジャパン株式会社Volvo/Maserati/BYD など自動車小売販売事業 双日株式会社
自動車本部双日オートグループ大阪株式会社BMW/MINIなど日本国内での小売販売 双日株式会社
航空・社会インフラ本部双日エアロスペース株式会社航空・宇宙関連機器・部品の輸出入・国内販売 双日株式会社
エネルギー・ヘルスケア本部エルエヌジージャパン株式会社LNG(液化天然ガス)取引・プロジェクト開発 双日株式会社+1
金属・資源・リサイクル本部(多数会社)鉱山/非鉄金属/リサイクル事業等を含む資源部門 双日株式会社
化学本部日本エイアンドエル株式会社SBRラテックスおよびABS樹脂等の製造・販売・研究開発 双日株式会社

※上記はあくまでも代表的なグループ会社を抜粋したものです。双日は国内・海外ともに500社以上の連結対象会社を有しています。 双日株式会社+1

上位株主・保有先一覧

株主構成を把握することで、株価変動・株主還元政策・ガバナンスの観点が読みやすくなります。
以下は最新公表分の上位株主(保有比率)です。
(出典:双日「株式基本情報」) 双日株式会社

株主名持株数(千株)保有比率
日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口)39,66318.70%
日本カストディ銀行株式会社(信託口)15,5577.33%
日本証券金融株式会社4,2902.02%
三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社3,9771.87%
野村信託銀行株式会社(投信口)3,6311.71%
STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 5050013,0881.46%
STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 5051032,8531.35%
JPモルガン証券株式会社2,7711.31%
STATE STREET BANK WEST CLIENT-TREATY 5052342,7021.27%
THE BANK OF NEW YORK MELLON 1400441,7610.83%

上記株主には多くが信託銀行・外国機関投資家であり、双日は「特定の大株主によるコントロール」が少ない、比較的分散された株主構成と見られます。

投資家が注目すべき3つのポイント

双日は、単なるトレーディング商社ではなく、資源権益の確保から流通・販売までを統合的に担う“資源商社型モデル” を確立しています。
同社の成長ドライバーは、①資源調達力、②国家戦略との連携、③事業投資型モデルへの進化、の3点にあります。

① 資源権益確保力と調達網の多様化

双日は、レアアースやリチウム、ニッケルなどの非鉄資源を中心に、オーストラリア・カナダ・カザフスタンなど世界各地で調達権益を持っています。
特に「オーストラリア産レアアース輸入プロジェクト(2025年3月発表)」は、日本のサプライチェーン分散化を支える象徴的な案件です。

また、アフリカや中東での新規資源探索も強化しており、資源リスクの分散が進んでいます。
商社の強みである「契約・物流・金融・為替対応」を組み合わせた複合モデルで、供給不安定なレアアースの安定調達を実現している点を高く評価されているのです。

② 国家戦略との整合性

経済産業省は2024年以降、「重要鉱物の確保」を国家政策の柱に据え、レアアース・ニッケル・コバルトなどを対象に公的支援を拡充しています。

双日はこの動きの中で、JOGMECとの共同事業、オーストラリア政府との戦略的協定などに参加しました。
「民間×公的機関×海外政府」 という多層構造のサプライチェーンの要として、南鳥島レアアース泥プロジェクトへの関与も期待されているのです。

資源開発を手掛ける住友金属鉱山、製造加工を担う日立金属と並び、双日は「国策プロジェクトの調整役」としての地位を確立しつつあります。

③ トレードから投資へ ― 商社3.0モデルへの進化

従来の商社モデルが「仲介・取引」であったのに対し、双日は近年「事業投資・長期保有型」の商社モデルへ転換しています。

発電事業、再生可能エネルギー、EVバッテリーリサイクルなど、持続可能な資源・エネルギー領域への投資を積極化。
また、AI・DXを活用した物流最適化や、リスクヘッジ型のデリバティブ運用も強化しているのです。

こうした“商社3.0”モデルへの進化は、レアアース供給や海底資源事業にも波及する可能性が高いと見られています。

住友金属鉱山・日立金属との位置関係

企業名主な役割強み弱み
住友金属鉱山鉱山開発・製錬・素材化製錬技術・国内製造拠点海底資源開発コスト
双日調達・流通・販売権益確保・商流・契約交渉力製錬・分離の技術基盤なし
日立金属(プロテリアル)加工・最終製品化磁性材料・レアアース削減技術上流資源確保に弱い

住友金属鉱山が「掘る企業」、日立金属が「使う企業」だとすれば、双日はその間に位置し、資源と産業を“結びつける企業”といえます。
南鳥島レアアース泥を国家規模のサプライチェーンに乗せる上で、双日の調達力と交渉力は不可欠な要素となるでしょう。

まとめ:双日の展望とリスク

双日は、レアアースや非鉄資源の調達・供給を通じて、「日本の資源戦略を動かす実務担当者」としての地位を確立しています。

一方で、コモディティ価格変動・為替リスク・海外政治リスクなど、総合商社特有の外部要因には引き続き注意が必要です。

それでも同社は、
① 世界的な資源分散ニーズ、
② 国家戦略との連動、
③ 再エネ・電池素材投資、
という長期テーマの波に乗っており、中期的には安定成長が期待できるポジションにあります。

南鳥島のレアアース泥が商用化されたとき、そのサプライチェーンの中心にはきっと双日の名前があるはずです。

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参考・出典一覧

■ 公式IR/一次資料

■ 補助資料/環境・ESG関連

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