はじめに：なぜ今「スイスフラン」なのか
スイスフラン（CHF）は、世界で最も信頼される「安全通貨」の一つとして、長年にわたり投資家から絶大な支持を得てきました。
中立国スイスの安定した政治体制、堅実な金融政策、そして国際的な信頼を背景に、「世界が不安定になるほど強くなる通貨」としてその存在感を放っているのです。
近年の世界経済は、パンデミック後の供給制約、エネルギー価格の乱高下、米中対立の激化、そして主要国の金融政策転換といった複合的な要因により、「安全資産」への逃避需要が再び強まっています。
特に、株式市場や暗号資産のようなリスク資産が不安定化する局面では、スイスフランや円、米ドルといった通貨に資金が集中しやすく、為替市場ではその動きが顕著に表れるのです。
こうした状況の中、スイスフランは「守りの通貨」であると同時に、戦略的に活用できる投資通貨として注目されています。
たとえば、豪ドル（AUD）や米ドル（USD）など高金利通貨と組み合わせることで、スワップポイントを得ながら為替ヘッジを兼ねた長期運用が可能なのです。
2025年以降も、世界経済には以下のような不透明要因が残ります。
- 米国・欧州の利下げ局面入りによる金利差変動
- 中東・ウクライナ情勢の長期化
- 各国の選挙イヤーによる政策リスクの拡大
- 中国経済の減速やサプライチェーン再編
これらのリスク要因が存在する限り、「安全通貨」としてのスイスフラン需要は衰えにくいと考えられます。
したがって、短期的な値動きではなく、中長期の資産防衛・スワップ運用の一部として組み込む戦略が有効になるでしょう。
つまりスイスフランは、単なる避難先ではなく、
「リスクを抑えながら収益を得るためのポートフォリオの中核」として位置づけることができる通貨なのです。
スイスフランの特徴：安全通貨としての信頼性
スイスフラン（CHF）が長年にわたって「安全通貨」として位置づけられているのは、単にイメージや歴史的慣習によるものではありません。
その裏には、政治・経済・金融の三本柱が極めて安定しているという実質的な理由があります。
① 政治・経済の安定
スイスは永世中立国として知られ、過去200年以上にわたり戦争に巻き込まれていません。
この「中立」という立場は外交上のブランドとなり、国際社会からの信頼を確固たるものにしています。
さらに、連邦制による地方分権型の政治体制がリスク分散をもたらし、政権交代や政策転換による不安定要因が極めて少ない点も特徴です。
経済面でも、スイスは産業構造のバランスが良い国です。
金融・時計・医薬・精密機械など、外需と内需の両方に強い産業を持ち、危機時にも経済が大きく崩れにくく、世界有数の外貨準備と高い国際信用格付け（ムーディーズAaa、S&P AAA）もその裏付けとなっています。
② インフレ抑制と金融政策の堅実さ
スイス国立銀行（SNB）は、インフレ率を最も厳格に管理する中央銀行のひとつです。
過去数十年にわたって、スイスのインフレ率は欧米主要国と比べても常に低位で安定しています。
これは、通貨の購買力を長期的に維持できることを意味し、長期運用における「目減りリスク」を最小化するのです。
また、SNBは為替介入にも慎重ながら効果的な姿勢を取っており、急激な通貨高を抑えるために市場と柔軟に向き合います。
極端な金融緩和に依存せず、あくまで実体経済と物価バランスを重視する独立性の高い政策運営が、通貨の安定に直結しています。
③ リスクオフ局面での買われやすさ
「安全通貨」の名の通り、スイスフランは世界的なリスク回避局面で真価を発揮します。
株価下落、地政学リスク、経済危機といった“リスクオフ”の瞬間、投資家はポジション整理の一環として資金をスイスフランや日本円に移す傾向があります。
その結果、CHFは「リスク回避の避難通貨」として買われやすくなるのです。
興味深いのは、スイスフランと円が似た役割を担っている点です。
両者とも低金利・低インフレ・経常黒字国という共通点があり、市場の安全志向が高まるほど上昇圧力がかかりやすくなります。
したがって、投資ポートフォリオにおいては、「円とスイスフランのバランスをどう取るか」が、リスク分散の鍵となるのです。
安定の裏にある「国家ブランド力」
スイスフランは単なる金融資産ではなく、「国家ブランドの象徴」とも言えます。
政治・経済・金融の全方位で高い信頼性を維持し続けている国の通貨だからこそ、世界中の資金が安心して逃げ込める。
そしてその信頼こそが、スイスフランを長期運用の基盤に選ぶ理由なのです。
スワップ投資としての活用：スイスフラン売りポジションが有利
スイスフランは金利が非常に低い通貨として知られています。
そのため、スワップポイントを狙う投資では「スイスフラン売り（CHFを売って高金利通貨を買う）」が基本戦略となります。
代表的なスワップ向け通貨ペア
| 通貨ペア | 概要 | 長期保有のポイント |
|---|---|---|
| USD/CHF（ドル／スイスフラン） | 米ドル高・スイスフラン安でプラススワップが発生。 | FRBの金利動向を確認しつつ長期保有向き。 |
| AUD/CHF（豪ドル／スイスフラン） | 豪ドルの高金利と資源価格に支えられた安定通貨。 | 豪経済の強さが続く限りスワップ運用に最適。 |
| TRY/CHF（トルコリラ／スイスフラン） | 高金利通貨との組み合わせで大きなスワップ差。 | 価格変動が激しく、ロスカットリスク大。上級者向け。 |
スイスフランは「低金利通貨」の代表格なので、買いポジションではスワップがマイナスになりやすく、スイスフラン売り／高金利通貨買いという形で運用するのが基本です。
今後の見通し：安全通貨需要の継続
世界的に地政学的リスクや景気減速懸念が続く中、スイスフランへの資金流入はまだ終わっていません。
特に2025年は欧州・米国の利下げ観測が進む一方、リスク回避の局面ではスイスフラン買いが強まる可能性があります。
このため、スイスフランを短期で売り込むリスクも高く、スワップ運用を目的にする場合は「長期的なレンジを想定したポジション管理」が重要になるのです。
注意点：ロスカットリスクに要注意
スイスフランの最大の特徴は「安全だが値動きが鋭い」という点です。
市場が急変すると、一瞬でスイスフランが買われ、スワップ狙いのポジションが逆行することもあります。
特に2015年の「スイスショック（対ユーロ上限撤廃）」のようなケースでは、レバレッジを高く設定していた投資家が強制ロスカットを受けました。
✅ 対策ポイント
- レバレッジは最大でも3倍以下を推奨
- 含み損に耐えられる証拠金を余裕をもって設定
- 突発的なニュース時（中東・欧州情勢、SNB声明）にはポジションを縮小
安全通貨であるがゆえに、逆に「買われすぎ」リスクもあることを忘れてはいけません。
まとめ：守りと攻めを両立する「CHFスワップ戦略」
スイスフラン（CHF）は、世界的な不安定相場の中で資産を守る力を持つ通貨として長年信頼されてきました。
政治・経済の安定、インフレ抑制、リスク回避局面での強さという3つの柱が、他の通貨にはない独自の安定感を生み出しています。
一方で、投資対象としてのスイスフランは「守り」だけの通貨ではありません。
その低金利を活かし、豪ドル（AUD）や米ドル（USD）といった高金利通貨との組み合わせによるスワップ運用では、安定した収益を狙う「攻めの戦略」としても活用できます。
この「CHF売り・高金利通貨買い」というポジションは、為替変動リスクを抑えつつ、長期的にスワップポイントを積み上げる手法として人気があるのです。
ただし、スイスフランは相場変動が穏やかに見えても、リスクオフ局面では急騰しやすい特性を持つため注意が必要となります。
レバレッジを高く設定しすぎると、想定外の為替変動でロスカットに追い込まれる危険性があるのです。
そのため、証拠金に余裕を持たせた資金管理と、中長期視点での安定運用が何よりも重要になります。
今後も地政学的な不安や金融政策の転換によって、安全通貨への需要は続くと見られます。
しかし、その信頼性に過信せず、「守りの通貨」としての安定性と、「スワップ収益」という攻めの要素をバランスよく取り入れることが、スイスフランを活かした長期投資の成功につながるでしょう。