高市政権の経済政策に市場はどう反応?財政拡張と円安リスクの行方

2025年10月、自民党の新総裁に就任した高市早苗氏のもとで、日本の経済運営は大きな転換点を迎えています。
「積極財政」を掲げる新政権の誕生は、景気回復への期待を高める一方で、円安や金利上昇といった副作用への警戒も広がっているのです。

就任発表直後から東京株式市場では株高が進み、ドル/円は一時150円台に到達しました。

市場では「財政と為替の綱引き」が今年後半の最大テーマになるとの見方が強まっています。

景気最優先の積極財政路線

高市氏は総裁選の段階から「成長なくして財政健全化なし」と強調し、経済刺激策の継続を公約として掲げてきました。
政府支出を拡大して内需を底上げし、賃金と物価の好循環を実現する——これが新政権の基本方針です。

特に注目されるのは、エネルギー支援、子育て予算、公共投資の拡充といった家計と中小企業を支える政策です。
こうした対策は短期的に景気を押し上げる効果があるものの、長期的には財政赤字の拡大を招く懸念もあります。

経済アドバイザーの本田悦朗氏(元内閣参与)は「10月中の利上げは難しい。当面は財政による下支えが必要だ」と語り、まずは政府主導で景気を支えるべきだとの立場を示しています。
つまり、高市政権の初動は金融引き締めよりも「財政主導の成長路線」を明確に打ち出した形です。

国債増発と円安リスクの両刃

一方で、積極的な財政出動には明確なリスクも存在します。
政府支出が増えると国債発行が拡大し、債券市場では金利上昇圧力が強まっているのです。

通常、金利上昇は円高要因となりますが、今回は事情が異なります。
市場は「財政拡張=通貨価値の低下」と捉えやすく、むしろ円安方向に反応しているのです。
実際、ドル/円は150円台前半で推移し、為替介入への警戒感が再び高まっています。

財務省関係者は「過度な変動には断固として対応する」とコメントしていますが、市場では「仮に介入が行われても効果は一時的だろう」との見方が大勢を占めています。

日銀との微妙な距離感

高市政権の財政拡張路線と、日銀の金融正常化の動きには温度差があります。
日銀は9地域のうち8地域で「景気は緩やかに回復している」との判断を維持する一方、賃金上昇の持続性には依然として不確実性があるとして慎重な姿勢を崩していません。

市場では年内、特に12月にも小幅な利上げがあるとの観測が出ています。
もし財政支出の拡大と利上げが同時に進めば、政策の両輪が逆方向に働く“ダブル引き締め”となり、景気を冷やすリスクも出てくるのです。

それでも高市政権は「成長重視」「実質賃金の回復」を最優先課題とする姿勢を崩していません。
このため、日銀との連携よりも「政治主導で景気を引っ張る」という意識が強く、市場ではこれを“円安容認スタンス”と受け止める解釈もできるのです。

海外市場の反応と国際的な視点

高市政権の誕生は、海外の金融市場でも大きな注目を集めています。
特に米国や欧州の投資家にとって、日本の財政拡張政策は**円のファンダメンタルズ(基礎的な通貨価値)**を左右する重要要因です。

近年、為替市場では「ドル高・円安」の構図が定着しており、その背景には日米金利差の拡大があります。
アメリカの政策金利が高止まりする一方で、日本は依然として低金利を維持しているため、
円を売ってドルを買う動きが続いているのです。

さらに、高市政権が打ち出す「積極財政路線」は、景気刺激策としては評価される一方、海外勢の一部からは「財政規律の緩み=通貨価値の低下」と受け止められるリスクもあります。
特にヘッジファンド筋では、「政府支出の拡大が続く限り、円は上値が重い」との見方が優勢です。

そのため、ドル/円相場は短期的に150〜155円のレンジで推移する可能性が高いと予想されています。
ただし、為替市場は一方向に動き続けるわけではありません。
世界経済に不安が広がる局面では、「リスクオフ(安全資産への逃避)」として円が買われる傾向が根強く残っています。

つまり、海外投資家の視点から見ても、
円相場は「構造的な円安」と「短期的な円高反発」の双方の要素を抱えたボラティリティの高い通貨なのです。
国際金融の中で円がどう評価されるかは、今後の日本経済と高市政権の政策運営次第といえるでしょう。

市場が注視する3つのシナリオ

高市政権の政策スタンスを受けて、市場では今後の日本経済がどの方向に進むのかを慎重に見極めようとしています。
特に注目されているのは、「財政拡張」と「日銀の金融政策」の組み合わせが、為替や株式市場にどのような影響を及ぼすかという点です。
現在、金融市場では主に次の3つのシナリオが想定されています。

① 財政拡大が続き、円安と株高が並行するシナリオ
景気刺激策が功を奏し、輸出企業を中心に業績が改善。株高が進む一方で、為替は150〜155円のレンジで推移する可能性があります。

② 日銀が年内に利上げを実施し、円が一時的に反発するシナリオ
金融政策の正常化が進めば、ドル/円が145円台まで調整する局面も考えられます。
ただし、財政支出が継続する限り、長期的な円高トレンドは限定的とみられます。

③ 財政への信認低下による金利急上昇・市場混乱のシナリオ
国債市場の信頼が揺らぐと、金利急騰・株安・円乱高下の“トリプルショック”が起きる可能性もあります。
海外投資家が円建て資産を手放すリスクには注意が必要です。

これら3つのシナリオは、いずれも「財政」と「金融」のバランスがカギを握ります。
短期的には円安と株高が続く可能性が高いものの、政策運営のわずかなズレが市場心理を急変させるリスクがあるのです。

表にしてまとめるとこんな感じ。

シナリオ内容主な影響想定レンジ・リスク
① 財政拡大で円安・株高並行景気刺激策が功を奏し、輸出企業中心に業績改善。株高が進む一方で円安圧力が継続。企業収益改善、物価上昇圧力、輸入コスト増ドル/円:150〜155円台
② 日銀が年内に利上げ金融正常化で一時的に円反発、金利上昇で資金流動変化。一時的な円高、株価調整ドル/円:145円前後まで円高修正
③ 財政信認低下で市場混乱国債懸念で金利急騰、円乱高下・株安リスク。債券売り、海外資金流出金利急騰・為替乱高下

投資家にとって重要なのは、単に為替レートの数字を見ることではなく、政府と日銀の“呼吸”を読み取ること、その微妙な温度差こそが、2025年後半の日本経済を動かす最大の要因となるでしょう。

投資家はどう動くべきか

為替市場では短期的に円売りが優勢とみられます。
財政拡張の勢いが強く、米金利も高止まりしているため、ドル円は150円台を固めやすい状況です。

ただし中期的には、日銀の政策転換や年末の予算審議をきっかけに、一時的な円高修正が起こる可能性もあります。

FX投資家にとっては「短期では買い(円売り)、中期では戻り売り」の戦略が現実的でしょう。
150〜153円台は当面の上値抵抗帯であり、政府・日銀の発言が相場の方向を大きく左右する局面が増えると考えられます。

まとめ:期待とリスクの綱引き相場

高市政権の誕生は、日本経済に「変化」への期待をもたらしました。
積極財政は景気の下支えに効果を発揮する一方で、円安や金利上昇といった副作用も避けられません。

結局のところ、政府と日銀がどこまで足並みをそろえられるか——
この「政策協調の成否」こそが、今後の日本経済と為替相場を左右する最大のポイントです。

投資家にとっては、短期的な円安トレンドを追いながらも、政策転換の兆しをいち早く察知すること。
それが、波乱含みの2025年相場を乗り切るための鍵になりそうです。

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